パブリック・ドメイン 北山谿太

国会図書館の個人名典拠に、1966年歿とあり、
http://id.ndl.go.jp/auth/ndlna/00032480
その典拠は、有田川町のホームページということです。
http://www.town.aridagawa.lg.jp/kanko/ijin/1474.html
こちらですね。


https://app.box.com/s/6johnhwyc4noruy2ed6jopetd71am1td
源氏物語辞典』のみです。
序文は山田孝雄

 北山谿太君の源氏物語に關する研究は久しい前から施されたもので、その一端が雑誌等に屡〻發表せられ、又「源氏物語の新研究」及び「源氏物語の語法」等の著書も公にせられて、その業績は學界注視の的となってゐる。抑も君がこの研究に心を専らにせられたことは頗る遠いのであらうが、昭和七年三月に教職を退いてから、源氏物語辭典の編纂に没頭し、拮据十一年、昭和十七年五月に脱稿した由である。この辭典は當時としては空谷に跫音をきくやうな大きな成果であった。それが東京冨山房にて出版すべく約束せられ、印刷も著々進行したが、戦時中の事とて昭和十九年七月に至り、出版中止の運びとなり、かくて終戦後も世情安定せず、空しく十數年を経過したのぱ惜むべきことであった。
 然るにこゝに機熟してその辭典が平凡社から出版せらるゝことになっだのは悦ばしい事である。今、その印刷した部分を一閲するに、その語の用例は詳密にして重要なものは洩れなく擧げてあり、隨ってそれらの解釋は實証的客観的に取扱ってあって、主観的武断の弊は見當らぬ。而して、その語より派生する熟語や成句をばその本語の下に列ねて、相互に對照啓發するやうに仕組まれてある。又由来のある語にはその典蝗をも一々注し示してある。更に又物語の本文には見えぬ語でも、世に普通に唱へられてゐる人名などはそれ〴〵に項を設けて説いてある。例へば「明石中宮」「秋好中宮」の如きがそれである。これらは一般にこの物語の主要な人々として讀者のいふ所の名であるけれども、物語自體に於いてはさやうな名は一度も用ゐないのである。若し、この物語にあらはれた語に限るとすると、これらの人名は求めても得られずして讀者にぱ頗る不便である。著者の編纂法は頗る親切であるが、その親切がかやうな方面にまで及んだのであらう。之は親切であると共に、讀者には甚だ便利である。
 本言は上に述ぶる如くに、脱稿の後筐底にありて十數年を経過したことは著者にとりてぱ不幸なことであったといはねばならぬ。しかしながら、その十數年は空しく過されたのでは無かった。著者はその間に倦むこと無く改訂補修をくりかへすこと六囘に及んだといふ。その補訂の度毎に、兪〻正しくなり、益〻充實を加へたことはいふまでもあるまい。かくして考へて見れば、かの塞翁の馬の如く、昭和十九年に出でずなりて今日に至ったのは物怪の幸ともいふべきことであるともいはねばなるまい。
 源氏物語の研究は近年頗る盛んになり、その成果も著しく見ゆるが、著者の従前の發表もそれに貢献せられたことが少く無いと思ふ。又その間にこの物語の索引が吉澤博士のと池田博士のと二種も競ひ出たといふことは、この物語の研究の上に確實なる基礎を築いたといはねばならぬが、本書はそれらの基礎の上に築かれた殿堂といふべきもので、これが世に公にせられたならば、更に一段の進歩を促すことになるであらう。
 以上麁略な言に止まるが、この著者の努力と學識と功績との一端を見たつもりである。ここに本書が學界を益すること多大なるべきを悦ぶと共に、著者に感謝の意を表し、併せてこの書の前途を祝福する。

昭和三十二年五月十五日・
山田孝雄

源氏物語のことばと語法』も手許にあるのですが、スキャン出来ておりません。

補記

源氏物語のことばと語法』も追加しました。2017.8