非常

帰宅中の電車内で、突然、音がして、近くに立っていた人が倒れた。頭が、私の座っていたすぐ近くに来た。意識を失ったような倒れ方で、これは大変だと思った。私はおろおろと立ち上がり、「車掌さんを呼ばないと」と声を出しながら周囲を見渡すが、それらしきボタンが見当たらない。気配を察して同じ車内のどなたかがボタンを押したのであろう、電車は徐行しやがて停車。「緊急ボタンが押されたので停止しました」のアナウンスが入るが、車掌はやって来ない。倒れた人も意識を取り戻して、謝って立ち上がろうとするが、すぐに近寄って介抱していた人がそれを押しとどめ、「私、医学生ですから」と落ち着いた様子で、起きない方がよいとよいと指示。車掌はまだ来ない。ボタンが何両目で押されたのか分からないのだろうか。だとしたら、アナウンスの際に「車掌は○両目に居るので、緊急の内容を知らせて欲しい」とでも言えないものか。

しびれを切らした近くの人が「私、車掌を呼んできます」と後方に行く。しばらくすると、ようやく車掌の帽子が見えた。やはり、呼びに行かねばならなかったようだ。倒れた人の様子を見て、次の停車駅に連絡を取るから、ということになる。倒れた人は申し訳なさそうに腰を起こし、人々は椅子に横になってはと勧めるが、本人はそれを済まながり座る。人々は横になれるように椅子を空けており、やがて当人も謝りながら上半身を椅子に横たえる。

「急病人が出ましたので停車いたしました」のアナウンスがあり発車したが、「電車が遅れて申し訳ありません」を何度も繰り替えすのが辛かった。本人の耳にも当然聞こえる。この車輌だけでも音声を消す、ということはできないものか。

停車駅では、担架らしきものを持った人が待機していたから、こうしたことに対する準備はしているのだろう。だったら、もっと車内での対応も考えておいて欲しいものだ。下手に「車掌を呼ぶボタン」を付けると濫用する人がいて困るだろうが、なんとかならないものか*1

と、偉そうに言っている私も、目の前で人が倒れていながら、おろおろと立ち上がり「車掌、車掌」と大きからぬ声を出すことしか出来なかったわけで、無力さを感じている。最初の音がしたときに、すばやく行動して、頭を床に打ち付けないようにする、などということは出来なかったろうとは思うが、せめてもっと大声で「車掌を呼んでくれ!」と言うか、自分で呼びに行くか(前にいるのか後にいるのか見当が付かないにしても)、出来ることはあったろうにと思う。

*1:この時のことを、翌日話したときに聞いた話では、東京のある電車では、緊急時、車掌と会話できるようになっているそうだ。