本を見なけりゃ分からない
角川選書の山岡鉄舟『武士道』ASIN:B000J9B50G、「現代語訳」ともなんとも書いていないけれど、次のような文体だ。
三 科学進歩の余波
今日世界人心を泥まみれにした気圧原因は、一つには科学進歩の余波と思われる。私慾的、自愛的感情の鋭敏な人類は、この便法の一端緒を発見すると専心一意、他を顧みる暇もなく、あるいは理学の、工学の、医学の、法学のというごとく、人事も複雑となって、道徳について深く考えるゆとりがなくなったこと、これがすなわち気圧の原因である。
どの程度、もとの文体を残しているのか、前から気になっていた。
近代デジタルライブラリーに入っている*ので見てみた*。
三 科学進歩の余波
今日世界人心を泥ましめたる気圧原因は、一ツには科学進歩の余波と思はる。私慾的自愛的感情の英敏なる人類は、此の便法の一端緒を発見するや専心一意、他を顧みる暇なく、或は理学の、工学の、医学の、法学のと謂ふ如く、人事も複雑となつて、道徳に其の念を薄らぐに至りし事、是れが乃ち気圧の原因である。
(原文は旧漢字)
漢語は大体残っているか、と思ったけれども、英敏→鋭敏という書き換えなどがあることが分かった。
「なづましめたる→どろまみれにした」などは面白い。
ちなみに
勝海舟『氷川清話』は、こちらが古いが、こちらの方が、今の本文に近い。
戊辰の変は おれは町飛脚の知らせによつて、幕閣よりも一日早く承知したけれど、おれは当時閑居の身だつたから、意見を進める機会を得なかつた。翌日になつて、いよ/\幕閣に知れ渡ると城中は鼎《かなえ》を沸《わか》すやうだツた。それは祭りにさへ騒ぐ江戸ツ児《こ》の事だから、江戸の騒ぎもたいてい察せらるるだらう。この時幕議では、事の起りが少々の行違ひだから、たいした事にもなるまいとの説だつたけれども、おれは独《ひと》りで、西郷めがこの機に乗じて、天兵を差し向けはしないかと心配して居たところが、果してやつて来たワイ。西郷は実にえらい奴だ。(講談社文庫asin:4061340417)
戊辰の変は おれは町飛脚の知らせによつて、幕閣よりも一日早く承知したけれど、おれは当時閑居の身だつたから、意見を進める機会を得なかつた【さて】、翌日になつて、いよ/\幕閣に知れ渡ると城中は鼎を沸すやうだつた【ヨ】。それは祭りにさへ騒く江戸ツ児の事だから、江戸の騒ぎも大抵察せら【れ】るだらう。この時幕議では、事の起りが少々の行違ひだから、大した事にもなるまいとの説だつたけれども、おれは独りで、西郷めがこの機に乗じて、天兵を差し向けはしないかと心配して居た処が、果してやつて来たワイ。西郷は実にえらい奴だ。
http://kindai.ndl.go.jp/BIImgFrame.php?JP_NUM=40018228&VOL_NUM=00001&KOMA=6&ITYPE=0
戊辰の変は おれは町飛脚の知らせによつて、幕閣よりも一日早く承知したけれど、おれは当時閑居の身だつたから、意見を進める機会を得なかつた。翌日になつて、いよ/\幕閣に知れ渡ると城中は鼎を沸すやうだツた。それは祭りにさへ騒ぐ江戸ツ児の事だから、江戸の騒ぎも大抵察せらるヽだらう。この時幕議では、事の起りが少々の行違ひだから、大した事にもなるまいとの説だつたけれども、おれは独りで、西郷めがこの機に乗じて、天兵を差し向けはしないかと心配して居たところが、果してやつて来たワイ。西郷は実にえらい奴だ。
http://kindai.ndl.go.jp/BIImgFrame.php?JP_NUM=40018230&VOL_NUM=00000&KOMA=24&ITYPE=0