ああいう円朝

円朝のア系は、やっぱりちょっと今と違うのではないか。話芸とか言うことではないように思える。

豐「私が早く死んだら、お前の真底(しんそこ)から惚れているお久さんとも逢われるだろうと思うからサ」
 新「あゝいう事を云う、お前は何(なん)ぞと云うとお久さんを疑(うたぐ)って、ばんごと云うがね、私とお久さんと何か訳があると思って居るのかえ」
[……]
 豐「可愛そうでございましょう、お前はお久さんの事ばかりかわいそうで案じられるだろうが、私が死んでもお前は可愛そうだと思う気遣(きづかい)はないよ」
 新「あ、あゝいう事を、お前仕様がないね、[……]」
 豐「御尤(ごもっとも)でございますよ、でも何(ど)うせあるのはあるのだね、私が死ねば添われるから、何卒(どうぞ)添わして上げたいから云うのだよ、新吉さん本当に私は因果だよ、私は何うも死切れないよ」
 新「あゝ云う事を云う、何を証拠に…えゝそれはね……彼様(あん)な事を…又あゝいう事を……お前そう疑るからいけない、[……]

真景累ヶ淵(青空文庫版)

近代デジタルライブラリー版