中国

7月1日(星期三)

 午後から町へ。故旧書店へ行くと一割引を遣っていて、沢山買おうかとも思うが、重いし、金も無い。取り敢えず、鮑明炜『唐代詩文韻部研究』8.5。『四庫全書総目』28。『韻府群玉』22.8。だけ買う。西隣の店に入ってみると古本屋であった。欲しい本も有ったが、また今度にする。
 解放路餃子館の下の店に有った王力『漢語詩律学』はまた買いに行けなかった。

7月2日(星期四)

 昨夜三時ごろまで起きていて、赤川次郎の『三毛猫ホームズの狂死曲』を読み終えてしまったので、今朝は寝坊した。

7月3日(星期五)

 夜は、日本人好みの味だという蘭州拉麺を食べに行く。長安路に出ると空気が澄んでいて終南山が見える。始めてである。


終南山 王維
太乙近天都 連山到海隅 白雲廻望合 青靄入看無
分野中峯變 陰晴衆壑殊 欲投人処宿 隔水問樵夫
 自由市場に入ってその気で見ると蘭州拉麺の店は3軒ほど有った。奧の方に有るのがいい、と聞いていたのでその店に入る。拉麺は一杯1元。麺が日本のラーメン風なので食べやすい。時々太い麺も入っては入るが、きしめんの様な物ばかりだと思っていたので嬉しい。スープは唐がらしが浮いている他は色の薄いもので、確かに東日本の人には合うのであろう。豚骨スープに慣れている九州人にとっては、少しコクが無いようにも思うが、食べている内に美味しくなってきて、汁も沢山呑んでしまう。

7月4日(星期六)

 町へ行って故旧書店で本を買込んでこようと家を出たが、今日はバスが無いとの事。一旦諦めかけるが、一割引は見逃し難く、公共バスで行くことにする。駅の近くまで行ってから解放路餃子館の下の本屋に入る。ところが幾ら捜しても『漢語詩律学』は無い。勇気を奮って聞いてみたら、没有とつれない返事。意気消沈してとぼとぼ歩く。今まで見ていない本屋が有れば、そこに置いてあるかもしれない、と本屋を捜して歩く。新華書店の解放路店というのがあったが、何も無い。隣の小さな本屋では92年4月発行の新しい西安交通図を買う。東大路を過ぎても猶南下して、城壁のところまで行くが、本屋はない。城壁に沿って西行すると、住宅地で碑林の近くまでは何も無い。故旧書店に行き着いた時にはくたびれ果ててしまった。
 いろいろ悩んだのだが、『漢詩大観』、『十三経註疏』と索引、『六臣注文選』を買った。重い荷物を抱え南門のバス停まで歩いていると、猿まわしが居た。2匹の猿を叱りつけながら何かさせようとしているようだったが、通り過ぎただけだから分らないが、芸らしいことは特に何も無い。

7月10日(星期五)

 電視報によると、十六時ごろから『井上靖敦煌』という番組が中央電視台であるようだ。はたして、陝西省電視台が中継する時間なのかどうか怪しい所である。ビデオを準備してみていると、前の番組が終り、番組が始まりそうだったのでビデオの録画のスイッチを入れた。ジープに乗った井上靖が先ず写り、次に和服姿の井上靖が写った。無事中継が始まった、と思った次の瞬間、電波が途切れた。やはり駄目だったのだ。期待を持たせないでほしいものである。

7月11日(星期六)

 昼から青龍寺に行こうと家を出る。3路のバス、小寨で24路に乗換えて大雁塔へ。大雁塔から19路のバス停を捜したが見当らず、東へ行くうちに西安電影の前に来てしまい、そこのバス停でバスを待つ。ところが、来たバスはものすごく満員なので恐れをなして今日の青龍寺行きは中止にして、大雁塔に戻る。前回の大雁塔行きでは大雁塔横の唐代芸術博物館を見残していたからである。入場料は1元(外賓5元)。しかしパンフレット代と言って別に1元取ろうとするので、1枚で良い、といって2人で3元払う。展示室が5つばかり有ったが、そのうちの書画展覧室は閉まっていた。残念なことである。

7月13日(星期一)

 書籍小包が届き期待するが、『波』『ちくま』と古書目録しかはいっていない。『三省堂ぶっくれっと』のほうが有難いのだが、『波』も結構面白く読む。古書目録は見てもどうせ間に合わないので見ないようにする。琳瑯閣の目録はこちらで見ると勉強になった。一元を約120円程度にしているのではないか。今5巻まで出ている『全宋詩』の予定巻数が100巻と書いてあって驚く。小包の中には司馬遼太郎項羽と劉邦』中が入っていたので、読みさして止めていた上巻を取り出して読み始める。

7月14日(星期二)

 『項羽と劉邦』上中下読了。項羽は享年三十一歳であったのだ*1

7月15日(星期三)

 陳舜臣講談社文庫『北京の旅』読了。北京の町を歴史的な観点から詳しく紹介していて大変勉強になった。これぐらい詳しい旅の案内書が西安にもあると良いのだが。同じ陳舜臣講談社文庫『長安の夢』は、「詩人たちの長安」という題で、唐代の長安が中心に書かれているだけで、あとは「西域巡礼」「三蔵法師の旅」が収録されている。西安の案内としては『北京の旅』ほどまでには詳しくないのだ。

7月18日(星期六)

 昼から、興慶宮公園にでかける。植物園まで歩き27路のバスで興慶宮公園の北側に下りる。入場料は一人四角(外人二元)。池が有って釣などしている人も多い。電動ボートに乗る。乗る時に15元払い、30分して戻ると10元帰ってくるという仕組である。普通のオールで漕ぐボートも有るようだが、皆二人横に並んで前を向いて漕いでいる。どうしてだろうかとよく見ると、オールの支点となるべきものが付いていない。足漕ぎボートなどもある。ボートから釣糸を垂れている人も居る。アベックも結構多い。
 阿倍仲麻呂記念碑は公園の南東の外れに立っている。落書きも多い。北側に「阿倍仲麻呂記念碑」、東側に平仄が合っていないという「三笠山」の詩、西側に李白の「哭晁卿」の詩、南側に1973年2月の碑文。
 南門から出て402路のバスで城壁の南門まで行こうと思ったのだが、バスはなかなか来ない。城壁の東南端まで歩いて29路のバスに乗ろうと歩き出したのだが、ここまで来たら、と南門まで歩くことにした。吉備真備園を通って行く。

7月20日(星期一)

 河出文庫『長崎ミステリー』読了。

7月21日(星期二)

 河出文庫『瀬戸内ミステリー』読了。

7月22日(星期三)

 大興善寺公園に五角で入る。

長安志]
靖善坊大興善寺、初曰遵善寺、隋文移都、先置此寺、以其本封名寺、殿崇廣、為京城最。

7月23日(星期四)

 朝から青龍寺を目指す。植物園から27路で大雁塔へ。そこから19路の小公共汽車で鉄路廟へ。しばらく北に歩くと高い所にそれらしき建物が見えはするのだが、道が見当らない。まごついていると、父子づれが道を教えてくれるが、何を言っているのか詳しくは分らない。ゼスチャーで察し東に進むが北に折れる道はなかなか現れない。暫く行って漸く北に折れると坂道である。きちんと舗装されているから観光地なのだろうとは見当を付けながらも、ここでよいのであろうかと不安に思いつつ登りつめると、駐車場が有って、「青龍寺遺趾」と有るが、入口らしい扉は閉っている。土産物屋も1軒だけは開いているが、他は固く門を閉ざし、「一九九二年六月封」などと書いた紙で扉を閉じている。これは青龍寺は再び廃寺に成ってしまったのであろうかと、道を西に折れて足を進めると、ようやく入口らしい所に行き当る。「空海惠果記念館」とある。入ろうとすると、「有票?」と聞かれる。どうやら、通り過ぎた所で買ってこなければ成らなかったらしい。道を戻り、壁沿いの石畳の道を南に折れて入場券を買う。一人五角。
 此處には「空海記念碑」位しかない。北側に建っており、南面に「空海記念碑」、東に日本語による空海の伝記、北側に中国語の碑文、西側に日本語の碑文であった。展示室も有ったが、なぜか「大修館新漢和辞典」が数十冊並べてあったのが目に着いた。善通寺の写真などが有る。
 先程の「記念館」の方に行くと、大きな建物には鍵が掛っていて入れない。外に建っている碑文だけしか見るのが無くてがっかりしていると、日本人らしい客がやってきて、それに伴って、鍵が開けられた。空海恵果の像の他に出土した物も展示してあった。仏像、瓦の他に、文字を刻んだ塔のかけらも有る。新しい物としては拓本用と思われるものが幾つか刻んである。唐代の詩人が青龍寺を読んだ詩が多いようである。
 堂の前の碑文を見てみると、一つは空海の恵果を讃える文章、もう一つは日本語による空海と恵果の伝記であった。
 青龍寺を辞して、坂道を下りてそのまま真っ直ぐ行くと、意外にはやく、バス通りに出た。「骨科医院」である。「鉄炉廟」よりもこちらが近かったのだ。
 バスを待つが、今日はとにかく暑い。ジュースを飲むが、耐えられない。ふと見ると、「レストラリ」と書いた看板が見える。昼飯時なのでそこで食べることにする。ところが出てきたビールは温かった。蝦も頼んだのですこし贅沢になり、43元ほどであった。
 小公共汽車で大雁塔まで行き、そこから歩いて小寨。バスで帰宅。かなり疲れて昼寝する。腹痛となり、正露丸を飲む。食べ過ぎの様だ。高い金を払うと残すのが惜しくなり詰め込んだのが行けない。

7月25日(星期六)

 夕方、自転車で西の方に行ってみる。革命関係の墓がある。今日は南の方の山がとてもきれいに見えた。明徳門遺跡は何処にあるのか分らなかった。

7月26日(星期日)

 森村誠一『致死海流』読了。

7月27日(星期一)

 朝から腹痛でぼんやりしており、読書でもする。西村京太郎『夜間飛行殺人事件』、夏樹静子『遠ざかる影』(中国からの帰国者ネタ)、黒岩重吾『愛の装飾』読了。テレビでは奥運(オリンピック)などやっている。

7月28日(星期二)

 夜、松本清張ゼロの焦点』読了。まだ読んだことが無かったのだ。

7月29日(星期三)

 城山三郎『成算あり』読了。

7月30日(星期四)

 岩波新書『中国大陸を行く』読了。

7月31日(星期五)

 師範大の本屋ですこし購書。

今月は他に、

堺屋太一『日本人への警告』、穂積隆信『積木 その後の娘と私たち』読了。

*1:この時、私も31歳。