デンキンバシラの続き

デンキンバシラを語源俗解としたことについてトラックバックが送られてきたので、注記しておきましょう。


「電気+柱」から作られる形は、通常は「デンキバシラ」であると思われます。一方、「電信+柱」は「デンシンバシラ」。『福井県方言集』に記されている、「デンキンバシラ」がテーマです。福井では、「シ」が「キ」へと音声的に訛ることはないと思われ*1、一方、「デンキバシラ」から「デンキンバシラ」が出来たと考えても、なぜ「ン」が入ったのかを考えたくなります*2
そう考えると、デンシンバシラという語形に、デンキが働きかけて、デンキンバシラという形を作った、という具合に考える方が、筋道が立てやすいのです*3


あるいは、電信の柱と、電線の柱とを、デンシンバシラ:デンキンバシラと体系化(類化)した話者もいたかもしれません。その場合は、デンキバシラにデンシンバシラが影響を与えたとみるべきなのでしょう。日本国語大辞典で「電気柱」の用例としてあがっている、小林多喜二「防雪林」の「電信柱や電気柱」を見て思いました。


なお、日本国語大辞典は、方言の「デンキンバシラ」の形を、おおむね「電気柱」のところに寄せてありますが、「電信柱」のところにもあります。かなり広範囲に見られる語形のようです。


また、「電線柱」という形もありました。「電信柱」と同じくらいの明治初期の用例です。

*1:福井に限らず、チとキが交替したり、チとシが交替することはあっても、シとキは交替しにくそうです。

*2:「バ」という濁音の前だから「ン」が入るのだ、というだけではなく、なぜそれが一拍分の撥音になったのかを考えたいと言うことです。

*3:「語源解」ではなく、「語源一知半解」「語源知解」とでもいうべきだ、という考え方もあるでしょうが、この場合の「俗」は、元とは違う、というような意味です。「再解釈」です。