尾と子

前波仲子『改訂増補/女性寶鑑』という本を古書店で手にしたのは、この手の作法書に、言語作法や文章作法が載せられていることもあるだろうから*1、というのもあるが、著者の名前が目についた、ということもある。


この著者の名前は、明治三十四年に『日本語典』を著した前波仲尾という人物の名に似ていたので、「奥さんか娘さんだったりして」と思ったわけである。


ところが、開いてみて驚いた。「改訂再版に際し」という「自序」には、「父 前波仲尾」の名があり、列挙して、「母 きし」「夫 仲子」「妻 とみこ」とあるのである。本当に親子で、しかも息子である。オトコである(本日の題名はその件)。


「仲子」には「ナカチコ」というルビがある*2が、『女性寶鑑』を著している仲子さんが男性というのは驚きで、三木のり平もびっくりであろう。

「自序」の終わりに二人の略歴がある。

仲尾――福井縣人、生を明治維新にうけ、今八十餘歳にて壯健 盛岡・鹿兒島・佐賀等の中學校長。甲南高等學校・滿洲教育専門學校長等、育英に專念六十餘年。目下、學位論文東方史執筆中。
仲子――明治文化の熟る頃生れ、鹿兒島中學・三高中退の上、東京商科大學を卒ゆ。銀座松屋宣傳課長・婦人世界主筆を經て、目下は經濟・女性の著述と講演。全國に足跡いたらざる無し。

昭和二十二年十二月二十八日 第一刷発行
昭和二十四年三月一日 第十二刷発行
京北書房 四六判 五一〇頁。

300円で購入。

補記

http://www.senkyo.janjan.jp/election/1947/99/001803/00001803_8455.html
前波仲子氏、第一回参議院選挙に出ているのか。このとき51歳。無所属/著述業。

*1:現に、「詞遣ひ」の箇所があり、「話す言語」「書く言語」について記されている。「話す言語」は「やさしい言語・敬語と作法・敬語の規約・應待」からなり、「電話の禮式・電話の應待・電話の標準語・電話の注意二三」がついている。「書く言語」は「手紙・手紙の祕訣・手紙五訓」からなる。

*2:「前波」には「マエバ」のルビがある