小杉天外『小説仕入帳』
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はしがき
生涯を作家で渡らうと思ひ定めた頃から、耳口に觸れた珍らしい事やら、枕のすべり加減で、暁方の夢にあらはれた怪しげな事どもを書き留めた幾冊かの備忘録がある。捷くいへば商賣物の仕入帳だ。こゝに収めた隨筆、短篇小説の大部分は、この仕入帳から摘み上げたことを種にして、蒸したり捏ねたりして成つたものだ。
史劇の三篇は、いつれも多大な期待をかけて、努力の限りを籠めた作品だ。好評を博するにも到らず、脚光を浴するの運にも惠まれなかつたが、やがて閻魔の廳に立つたならば、愚作百篇の生涯ながら、せめて此の三篇を擧げて、自家辯護の料にでもしようと思ふ。
昭和十六年一月
午虹庵天外
第一篇 隨筆
小説仕入帳
指輪
散歩
ふるさと
墓まゐり──空氣の味──土の魅力──詩人も
冐險家もーー望郷の歴史──一茶──わが故郷よ
的井の一族
蛞蝓
第二篇 小説
影鬼傳
牛仙人
内務卿
盲婆
死影
脱網羅漢
弱蟲
母の再婚