訛語づくし
マスペロ「唐代長安方音考」の仏語論文を探そうとB5コピーの山をつつくが見当たらない*1。しかし、面白いものが出てきた。高羽五郎氏が出していた、ガリ版による国語学資料集のひとつ「訛語づくし」(かたことづくし)
http://webcatplus.nii.ac.jp/tosho.cgi?mode=tosho&NCID=BN11741721
である。文化年刊の金沢における訛りを挙げているもの(俚言ではなく)。高羽氏は、原本を鉄筆でなぞっているほかには、(ストイックに)五十音順の一覧をつくっておられるだけだが、それをちょっと眺めているといくつかの法則的なものが見えてくるのが面白いのだ。
そのうち、前から興味を持っていることで、サ行ザ行の前の撥音が「イ・ウ」に変化するというのがある。イかウかは直前の母音による。
- 天神→ていじん
- にんじん→ねいじん
- 遍参→へいさん
- 門前→もうぜん
バ行の前でもウに転じている。
- 昆布→こうぶ
(ただしこれは、コンブからではなく、コブからかもしれない)
ガ行がマ行ナ行に転ずるのも面白く、北陸が今なおガ行鼻濁音の強い地域であるのを想起する。
- 泳ぎ→およみ
- 蟋蟀→こうろみ
- 動く→いごく・いのく
- かたげる→かたねる
- 茶釜→ちゃまが
- 観音→くはんごん(ナ行→ガ行)
他に、
エ列→イ列(逆も)
ウ列→オ列
ひ〜し
す〜し
しゅ〜し
る〜り
つ〜ち
d〜r
ょー〜ゅー
「肝煎」「得手」「えのき」「烏帽子」の「え(い)」のヨ化(著者は「よりどり」も「ゑりとり」の訛語とする。「帰る」の「かやる」も含めてヤ行音化とメモしていたが、分けた方がよいか。)
キャキュキョのチャチュチュ化(いわゆる「口蓋化」)
- 脚絆→ちゃはん
- 曲録→ちょくろく
濁音前への撥音追加
- さぢ→さんじ
- そのたびたび→たんべたんべ
「日本語の語源説」をおいているところのメンテがようやく終わったらしく、久しぶりに書く。それを書いているときに見た『言語生活』160(1955.1)「座談会「子どもの遊び」と「ことば」」に、昔、ランドセルの附録に替え歌集が付いてきた、という話が載っていて、興味を持つ。なるほどそういう形での替え歌集があったのか。
私の手持ちの替え歌集は、以前書いた春歌集の類*3、害のない野外イベント用の替え歌集ぐらいか。あと、非常に害の強い、『支那たおし』(明治廿八年)があるのでした。これは見ていて辛い。そんなにまで言わねばならないか、という感じです。「反支」感情を盛り上げようとしたのでしょうが。