『旧事諮問録』

速記録と言えば、『旧事諮問録』も面白い。例えば、元お庭番が、次のように語る。

 昔世上にて申した事だそうでございますが、文化か、その前にや、村垣という家名が御庭番で長く勤めて、殊に御用立った者で、非常に探索筋を甘《うま》くした者のように申しまして、村垣は雲助になったり、種々な者になって薩摩へいった。薩摩では決して他国の者を入れぬから、植木職人になって松の木の枯れ掛ったのを直したというようなことを以前でもよく申すことでございますが、決してそんなことはないのです。(中略。この村垣が、遣米で有名な村垣淡路守の先祖だという話。)
 遠国へ御用でまいるのは、世上で申すのとは大きに違いまして、膝栗毛のようなこともないのでございます。それではとても畳の上の探索はできませぬ。まず唯今申し上げた、京都にも大坂にもおります手先でございましても、既に御用達《ごようたし》町人でございますから、平素のおこないもそう野卑なことはいたしませぬ。慰みには茶会を催すとか、謡でもやっているという位で、交際する人も、低い御公家様にも懇意の者ができるというようなことです。青木吉五郎と申すものは歌が巧くできまして……。それで、どうかこうか、あの地の探索が届くので、なかなか手先と申しても、こちらがかえって手先位の加減です。ただそういうふうに育ちますから、とかく金を遣いすぎたり、人間が柔弱にできたりということもございますが、連綿として近頃まで続いて御用をいたしておりましたのです。
大奥で勤めていた人の話や、昌平坂学問所の話も興味深い。

『旧事諮問録』は、岩波文庫で手軽に読めるが*1、『史談会速記録』*は多すぎて、どこから手をつけてよいかわからない。復刻版で五十冊ほどあったと思う。
これも、一度ざっと眺めてみたいと思いながらやっていない。目次だけでも手に入れたいところだ*2

*1:ISBN:4003343816,ISBN:4003343824

*2:索引の巻ISBN:4562100168bk1。補記、古書通信の幕末明治雑誌目次云々に入っている。