ゴーヤー

地方別方言語源辞典

地方別方言語源辞典

を見ると、

これまで「にがうり」(苦瓜)を語源とする見方もあったが、九州方言で苦瓜を表す「ごり」を語源とした方が穏当と見られる。

とあった。


しかし、「ごり」に対応するのは「グリ」「グイ」であり、「グ(ー)ヤー」にはなっても、「ゴーヤー」にはなりそうにない。
また、「ごり」自体が「にがうり」に遡るものと思うし、単独で「ごり」という言い方は使われているのだろうか。九州で苦瓜をさす言い方は「ニガゴリ」であって「ゴリ」ではないのではないか。


「ニガゴリ」は、「にがうり」に遡るだろう。「にがうり」の「がう」が「ゴー」と変化して「ニゴーリ」となる(あるいは「ニッゴリ」という段階もあったかもしれない*1)。
「にごーり」(あるいは「にっごり」)という語形から、〈語の治療〉をしたのが「にがごり」であろう。「ニゴ」という語形では、「苦(ニガ)」という形から遠ざかっている(「にごうなる」などと使われることはあるが)。それに〈治療〉を施したとみるのである。



この辞典では、宮古方言の「ガウリャ」も載せている。これは、まさに「ニガウリ」+「a」ではないか。


「nig→g」という音変化が説明しがたいと思っているのであろうが、「nig→Ng」を経て「g」になったのであろう。

「ニガイ」は「'NzasaN」で、「nig→Ng」という変化はあったろうと思わせる。語頭に「Ng」というのはないようだから、「g」となったと考えたいのである。


類例がないかと思ったが、これはむずかしい。「グルクン」という魚を聞いて、もしや「ニゴロ」に遡るのではないかと思ったが、「ニゴロ」はもともと魚の名前というよりは「煮頃」であるらしい*2
 

おまけ

以前書いたものがありました。

 「コーリ豆腐」と「コーヤ豆腐」について思いを巡らせているうちに、「にがうり」と「ゴーヤ」のことを思い出したのでおまけとして書いておこう。沖縄ブームとでも言うべき状況で、「ゴーヤ」が、沖縄料理の店だけではなく一般のスーパーなどにも並んでいる。関西のスーパーでも「ゴーヤ」がその品名であり、「にがうり」という呼称は消え去ったようだ。さて、この「ゴーヤ」あるいは「ゴーヤー」という語形のうち「ゴー」の部分は、「がう」にさかのぼることはまず間違いない(首里などの沖縄方言で、「オー」は、「アウ」か「アオ」かにさかのぼる。共通語の「オー」に対応するものでも、歴史的仮名遣は「あう」である。「高利貸し」は koorigasi だが、氷は kuuri などを参照)。当然「にがうり」の「がう」である(「にが・うり」だから、「ニゴーリ」にはならないだろうと思うかもしれないが、これがなるのである。九州あたりでは、「にがうり」のことを「にがごり」「にがごーり」という地方も多いが、これは、「にがうり」が「にごーり」になった後で、「にが」が消えたことに対する「語の治療」が行われた跡を示すものと考えられる(「語の治療」というのは、語形変化により意味などが取りにくくなった後に、意味などを取りやすい語形に変化させることである。))。「にごーり」から「ごーり」へは、「に」の脱落、という説明もできようが、脱落と言うよりも、nigoori が ngoori となり、g に n が飲み込まれた、という感じではないだろうか。さらに、ri が i になることはよくあることで、goori は gooi の形になったと考えられる。gooii という語形は、『沖縄語辞典』(国立国語研究所)に見え、goojaaと形状が似ているもので、gooii とも goojaa とも呼ばれるものがある、とのことである。ゴーヤーの形は、ゴーイに何らかのものが加わって出来たものであろうと考えられる。

*1:拍数保存を目指した語形。拍数保存とは、たとえば関西弁でニチヨービがニッチョービになったりする(ニチョービでなく)ようなものだ。「はんおう」が「はのう」でなく「はんのう」になるの──「連声」──も、そうかもしれない。

*2:日本国語大辞典に「ごろ」という魚が、ハゼ科の魚の異名として載っていて、これと関係があるのではないかと思った。詳しいことはわからないが。