異音か別の音素かの判定と当事者の意識*1
http://b.hatena.ne.jp/entry/http://d.hatena.ne.jp/keita_yamaguchi/20080618/1213772384
こちらの「を」の話を読んで。
柳田征司『室町時代語を通して見た/日本語音韻史』武蔵野書院ISBN:4838601387
では、松山方言のオの音価を次のように記述している。
音声環境 | ||
---|---|---|
語頭 | o | |
語中 | ||
語尾 | 前接母音 a・o | |
前接母音 i・u・e | uoが普通、oとも |
これは、柳田氏は、別音素ではなく、異音と解して記述しているものである。
ところが、地元ではこれを別音素であると思っている人が多いらしい。
また、広母音の後に於いても「uo」で発音する人もいるらしく、これらについては、
「くっつきの「を」は〔uo〕か」という意識が一般人にもあるものと思われる
としておられる。
(なお、柳田氏は松山ではないものの愛媛県の出身であり、oとuoの発音を持つ。)
土地人は、文字「を」が存しているために〔uo〕の音が自覚されていると考えているようである。確かに、文字「を」が「お」のほかに存在することは〔uo〕の音の自覚にとって大事なことではあるが、そのことのために〔uo〕が自覚されているのではないと思われる。四つ仮名の場合を考え合わせてみると、〔o〕と〔uo〕とがきれいな相補分布をしていないことに原因があるのではないかと思われる。そして、〔uo〕が頻用される助詞「を」専用のための音のようにさえ見える分布を示すことも力になっているのではないかと思う。
一方
沖縄では、[ʔu]と[wu]に音韻的対立があり、これが「オ」と「ヲ」に対応すると言われている。沖縄方言内部でも、その現れ方に違いがあるだろうから、それについて詳しく書いてくれているものがないかと思うのだが、うまく見つけられない。
中本正智『琉球方言音韻の研究』法政大学出版局1976
では、「夫」「折る」などの「ヲ」に対応する拍がどのような音価を持っているのかは書いてあるのだが(p339)、「音」などの「オ」に対応する拍*2がどのような音価を持っているのか、書いてくれていないので、残念だ。たとえば、小野津という場所では、ヲが[ʔu]で現れているようなのだが、オがこれと同じなのか、それとも別の音価でヲとの区別を保っているのかが分からないのだ。
奄美の諸方言に於ける「オ」と「ヲ」については、別の目的*3で作られたp102-103の表が、各地の音価を教えてくれ、全地域で区別があるようである。
上記ブクマのコメント欄を見るに
沖縄方言では[ʔu]と[wu]で区別があるが、沖縄大和口においては、[ʔo]と[wo]で区別している、ということなのでしょうか。