かなづかい問題

かなづかい入門―歴史的仮名遣vs現代仮名遣 (平凡社新書)

かなづかい入門―歴史的仮名遣vs現代仮名遣 (平凡社新書)

について少しだけ。

著者の「新仮名遣いで古典を」というようなことは、以前、何処で読んだのだったろうか*1

第八章にその話がある。


江戸時代風の発音をよしとする風潮*2に対しての感覚は賛成である。現代人が、理解しやすい形で音読すればよいのだ*3


源氏物語の時代以降は、「ジ・ヂ」「ズ・ヅ」以外、現代われわれの発している発音の方に近い」というのは、源氏物語当時の音韻を、少し進めすぎている感があるのはさておき*4、文語文を歴史的仮名遣で記すのには、〈解釈を示す〉という意図、また、〈誤解を避ける〉という意図がある(だから私は、歴史的仮名遣においても「ゃゅょっゎ」を用いたいと思っているのだが、それはまた別の話)。復元ではなく同定のための仮名遣である(「表語のため」とも言えよう)*5
著者白石氏は、既に定家・契沖などの古典校訂について語っているのだから、それも視野に入っているはずなのだが、懐古趣味に目を向かわせようとしているように思える。
なお、私が、歴史的仮名遣で解釈を示すとよいと思っているのは、せいぜい鎌倉時代初期ぐらいまでの文献で、あとは、当代当代の解釈表明用の仮名遣を校訂者が定めて書けばよいと思っていて、その意味では著者の考えに通じるとも言える。


なお、古代語通りの発音、ということについては、ドントポチ*6や万葉の朗読だけでなく、

朗読源氏物語―[録音資料]

朗読源氏物語―[録音資料]

http://webcatplus-equal.nii.ac.jp/libportal/DocDetail?txt_docid=NCID%3ABN03618457
にも触れて欲しかったと思うのだが、「ついでに平安時代の京都アクセントで読めば」と書いてあるのに、この本に触れないのは、敢えて無視しているのではないか、との疑念さえ抱いてしまいます*7


なお、ブックマーク*8で引用した「日常使っている言葉こそが正しい日本語である」は、以前書いたことと関連する。
http://d.hatena.ne.jp/kuzan/20080507/1210148534

「日常使っている言葉」は、「正しいとされる言葉」と「自分自身の言葉」との間にあるが、その差こそが、言葉づかいの問題である。

とでも言っておこう。別に、大したことを言っているわけではないが。

*1:最初、「読んだったのだろうか」と打ってしまった自分にちょっとびっくり。

*2:「歌ふ」を「ウトー」と読むなど

*3:http://kotobakai.seesaa.net/article/8174275.html

*4:源氏物語の最古の写本がある時代であるにしても、オ段長音の開合などを記し忘れている。

*5:そうまで言うのなら、なぜお前は現代文を書くのに歴史的仮名遣を使わないのか、と思われるかもしれないが、手短かに言えば、すでにあるものを解釈して示すことと、新たに書くことの違い、というようなことである。

*6:http://kotobakai.seesaa.net/article/8187001.html を参照されたし。

*7:他にも、敢えて無視しているものがあるようですし。

*8:http://b.hatena.ne.jp/kuzan/20080618#bookmark-8996392